2011年5月
★【しみ抜きビフォーアフター】③
しみ抜き加工事例③のビフォーアフターです。
試験の結果、しみは水性のものと判明。
幸いスレもなく、良く落ちました。
地紋のない変わり一越は、生地の変化が目立ち易く、
しみを付けた場合は十分な注意が必要ですが、
これをお持ちになった方は、その辺りのことを
よくご理解頂けてたので、キレイに加工できました。
変わり一越に限らず、実は無地の着物(訪問着・留袖など、
無地場の多い着物も含む)のしみ抜きで厄介なのが、
糊の「水カタ」です。
「水カタ」とは、生地に含まれる糊の「跡」のこと。
後染めの生地には、程度の差はあれ糊が含まれていて、
その糊がしみ抜き加工で動いて、その跡が「陰影」のように残るのです。
特に無地の場合よく目立ち、
一見するとしみやムラがまだ残っているように見えます。
糊がきつい生地の場合は、カタを消すために、またカタを作るという悪循環に陥ることがあり、
職人泣かせの生地と言えます。
丸染め加工の実例
付けさげを丸染め加工しました。
丸染めはその名の通り、そのまま染料に浸けこんで染めます。
派手になったきものを地味な色に変えて、しかも加工代が31.500円と比較的安いので、お手ごろな更生染めです。
しかし、当然、裏地も染まってしまいますし、柄にも色が入るので、どのような上がりになるか予測が難しい加工です。
丸染めは元色に直接色がのるので、色によって発色が変わります。
上の染め上がりの画像(右側)を見ると、一番目立つのは、花の「白」の色。
これは「ゴフン」という顔料系の染料のため、色がのらず、浮いて見えるからです。
葉も全体に白っぽく浮き上がって見えますが、これも「色ゴフン」が使われているため。
注目したいのは「花の赤」の部分と、「黄色の葉」のところ。
「赤」は「緑」の色をかけて黒っぽくなっています。
これは赤と緑が「補色の関係」(色相環上の反対色)のため、
色が濃くなって見えるのです。
逆に、黄色は緑の近似色です。
よく「青緑」や「黄緑」、「青紫」や「赤紫」と言いますね。
これは「色相環」上の近似色を表し、相性の良い色の組み合わせのことです。
(ちなみに「赤黄」は「橙」)
葉の黄色は濃度の濃い緑に吸収され、見えなくなってしまったのです。
このように、丸染め加工は色の変化を考慮する必要がありますが、
実際に加工するには、それ以外にもいくつか注意するポイントがあります。
◎染める色が限定される。
丸染めは色抜きせずに染めるので、必然的に選ぶ色は濃色になります。
その場合、元色の濃い色、例えばピンクならレンガ色、水色なら紺色と、色調を合わせるのが無難です。
加工事例のきものは白地なので、色の選択肢は増えますが、柄色を考えれば合う色は限定されます。
◎染めムラが起きやすい。
染め替えを考えるようなきものは、作ってから時間が経った、古いものの場合がほとんどです。
当然、しみや汚れ、生地の痛みなどの可能性があります。
事前に分かれば取り除く加工を行いますが、染めてみて出てくるスレやムラもあります。
また糊の含み具合、紬や平リンズなど、生地の違いによっても染め上がりが違います。
100%のキレイな染め上がりは、あまり期待しないほうがよいです。
◎多少の生地の縮み
丸染めは、染め上がりに若干の生地の縮みが伴います。
特にちりめん地のような撚糸を使った生地は、場合によっては1センチ近く縮むことがあります。
しかし、それは丸染めの加工方法を考えれば、ある意味当然のことで、
逆にそこまで縮みを戻せるというのが、むしろ優れた、特殊な仕上げ加工の技術といえます。
ですから、決して自分でやってみようなんて、思わないほうがいいです。
トンデモない事になりますから。
更生染めに完璧な染め上がりを求めるのは、難しいことです。
特に丸染めのような単純な染めは、それゆえハードルは高くなります。
更生染めの基本である、目的をはっきりさせること。
その上で、自分に合うかどうか、判断することが大切です。
ただ、丸染めはとても費用対効果が高い加工です。
この金額で、手持ちのきものが有効利用できるならと、
結果的には満足される方が多いということも、
最後に付け加えておきます。