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2019年5月

寸法直しの真実<身丈編>

身丈の変更も寸法直しでは比較的ニーズの多い加工です。

着物はおはしょりがあるので長めに感じますが、

実はおはしょりを含めた着物の丈が身長と同じであれば、適正サイズです。

つまり身丈≒身長なので、その着物が長いか短いかは、着てみなくても計れば分かります。

 

着物を広げてみると、身丈の真ん中あたりに縫い込みがあります。

この縫込みを「内揚げ」と言って、通常は前身頃にも後身頃にも存在します。

 

身丈の長さは、この内揚げ部分に縫い込む量で調節します。

身丈を詰めるのなら縫い込みを多くして、伸ばす場合は縫い込み分を引き出します。

 

縫い込みは内側に折り込んで縫ってあり、仮に2センチ縫い込みがあれば、全体で4センチ

伸ばすことができます。ただ、この2センチの縫い込みが、前身頃と後身頃のどちらにもないと

身丈を4センチ伸ばすことはできません。

そして往々にして、片方が短かったり、全く無かったということがあります。

 

前後の縫い込み量にバラつきがある場合、出せる長さはその縫い込み合計の半分になります。

例えば、片方が縫い込みゼロでもう一方が2寸なら1寸、2寸と1寸なら半分の1寸5分です。

 

これは肩山を頂点にして身頃布をずらし、バランスを取るのですが、古いものや洗い張りもの

の場合、左右の身頃で長さが違うことがあるので、注意が必要です。

そして身頃をずらして丈を調節できるのは無地や紬、小紋に限られ、

柄合わせの必要な訪問着など絵羽模様の着物の場合は、内ち揚げ分しか出せません。

 

このように、身丈がどれだけ出せるかは、内ち揚げにどれだけ縫い込みが入っているかで

左右されます。

ところが、前身頃にも後身頃にもたっぷり縫い込みが入っているにもかかわらず、

身丈を出すことができない、というケースが存在します。

 

2019528164950.JPG

 

上の写真は、身頃の内ち揚げを写したもので、点線で示したところが縫い込み部分です。

仮に後ろの縫い込みが10センチ、前が4センチとすると、身頃布だけならその半分の

7センチ近くは丈を出すことができる計算です。

 

しかし、着物の身巾を構成しているのは身頃布だけではなく、衽巾も含まれます。

つまり、身頃と同じだけ衽も伸ばさないと、身丈を長くすることは出来ないのです。

 

そこで問題になってくるのが、衽の先端のマルで囲んだ部分。

ここを「剣先」と言いますが、この先に衽の縫い込み部分があります。

そう、ここにどのくらい縫い込みが入っているかが重要になるのです。

 

仮に身頃に7センチ、8センチ入っていたとしても、この衽先に3、4センチしかなければ

出せるのはせいぜい2センチ足らずなのです。

これは、身頃を優先する着物の裁ち方にも原因があるのですが、

基本的には、元の寸法と大きく異なることが、その際たる理由です。

経験的に、5センチ前後は入っていることが多いのですが、

古いものの場合はその限りではなく、解いてみなければ分かりません。

やりくりが出来る着物ならではの落とし穴、と言えます。

 

洋服と比べて、寸法直しがフレキシブルとはいえ、

その寸法のベースとなるのは、やはり最初に着た人の体形です。

その、最初に着たであろう人の、一番多いのが、お母さん。

つまり、お母さんの体形が悪かった・・・

 

そう、悪いのはお母さんです。

 

冗談です。

 

 

 

 

寸法直しの真実 <裄編>

直線裁ちの着物は、解いて8枚の布を縫い合わせると、また一反の反物に戻ります。

洋服のような立体縫製でなく、直線縫いで端布の出ない仕立て方は、

布をフルに使う、非常に効率的な構造になっています。

そのため、仕立て直しや寸法直しも容易で、ニーズの高いリフォームです。

 

特に、身頃布と袖布で構成される裄の寸法は、その縫込み部分を出したり詰めたりするだけで

総丈を変えられるので、比較的簡単にできる寸法直しです。

 

どれだけ裄が伸ばせるかは、肩身頃と袖部分の縫込みがどれだけあるかで決まります。

肩口の袖付部分を触ると、縫い込んである生地の厚みで、このくらい、というのが分かります。

で、これだけ縫い込んであれば大丈夫だろうと安請け合いすると、

これが全然出なかった、なんてことが実はあるのです。

 

一般的な反物の幅だと約38センチ。ここから耳ぶんだの、縫い代分だのを差し引いて、

70センチ前後。計算上はこのくらい出てもいい筈なんですが(但し反物が無地・小紋の場合)、

いざ解いてみると70センチどころか、65センチも出ないことがある。

なぜなのか?そう、もうお分かりですね。

出るか出ないかは、染付けの「柄」によるのです。

 

2019516163926.JPG

 

上の写真は、袖付けを解いて、縫込み分を出したもの。

肩側の縫込みが約4センチ、袖側が2センチあるので、生地幅だけで考えたら縫い代分を差し引いても

5センチ近くは出るはずですが、肩側の柄付けが2センチ足らずしかないので、

裄は実際には2センチ前後しか伸ばすことは出来ません。

 

このような、柄が合わない・柄が切れるという事例は、振袖や訪問着のような、縫い目を介して柄が繋がる

模様に多く、特に、母親よりも手の長い娘に着せることが多い振袖に顕著にみられます。

 

柄が切れて繋がらない、ならば柄を書き足せば、と、一度柄足しの見積りを取ったことがあるのですが、

振袖は袂が長いので、加工代も(どこまでやるかですが)数万円~十数万円と費用もそこそこ掛かってしまい、

果たしてそこまでするかという意味では、現実的ではありませんでした。

 

世代の違いによる体形の変化は、これはもう仕方がありません。

母が着たきものを、娘が継ぐ。

なんて、喜ばしいことなんですが、

こういう不都合もあるのですね。

残念!