寸法直しの真実 <裄編>
直線裁ちの着物は、解いて8枚の布を縫い合わせると、また一反の反物に戻ります。
洋服のような立体縫製でなく、直線縫いで端布の出ない仕立て方は、
布をフルに使う、非常に効率的な構造になっています。
そのため、仕立て直しや寸法直しも容易で、ニーズの高いリフォームです。
特に、身頃布と袖布で構成される裄の寸法は、その縫込み部分を出したり詰めたりするだけで
総丈を変えられるので、比較的簡単にできる寸法直しです。
どれだけ裄が伸ばせるかは、肩身頃と袖部分の縫込みがどれだけあるかで決まります。
肩口の袖付部分を触ると、縫い込んである生地の厚みで、このくらい、というのが分かります。
で、これだけ縫い込んであれば大丈夫だろうと安請け合いすると、
これが全然出なかった、なんてことが実はあるのです。
一般的な反物の幅だと約38センチ。ここから耳ぶんだの、縫い代分だのを差し引いて、
70センチ前後。計算上はこのくらい出てもいい筈なんですが(但し反物が無地・小紋の場合)、
いざ解いてみると70センチどころか、65センチも出ないことがある。
なぜなのか?そう、もうお分かりですね。
出るか出ないかは、染付けの「柄」によるのです。
上の写真は、袖付けを解いて、縫込み分を出したもの。
肩側の縫込みが約4センチ、袖側が2センチあるので、生地幅だけで考えたら縫い代分を差し引いても
5センチ近くは出るはずですが、肩側の柄付けが2センチ足らずしかないので、
裄は実際には2センチ前後しか伸ばすことは出来ません。
このような、柄が合わない・柄が切れるという事例は、振袖や訪問着のような、縫い目を介して柄が繋がる
模様に多く、特に、母親よりも手の長い娘に着せることが多い振袖に顕著にみられます。
柄が切れて繋がらない、ならば柄を書き足せば、と、一度柄足しの見積りを取ったことがあるのですが、
振袖は袂が長いので、加工代も(どこまでやるかですが)数万円~十数万円と費用もそこそこ掛かってしまい、
果たしてそこまでするかという意味では、現実的ではありませんでした。
世代の違いによる体形の変化は、これはもう仕方がありません。
母が着たきものを、娘が継ぐ。
なんて、喜ばしいことなんですが、
こういう不都合もあるのですね。
残念!
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