2019年10月
きものトラブル事例集 な行
のせ友禅&金彩の剥離
京都市産業技術研究所繊維技術センター「和装品故障事例集」より
のせ友禅とは、顔料及び金属粉などをバインダー(接着剤)に練りこみ捺染する技法です。
この技法で染められた柄が剥離するトラブル事例です。
上の写真は、顔料を使用したのせ友禅の剥離部分です。柄が生地から浮いているのが分か
りますが、それ以外の部分も針で触ると簡単に剥離します。
剥離の原因は、当初はドライクリーニング後の発見事例が多かったので、ドライクリーニ
ングに使われる溶剤かと思われたのですが、その後溶剤だけでなく、バインダーに使用さ
れたウレタン系樹脂の種類、また顔料及び金属粉とバインダーとの配合比率など、複合的
な要因が絡んでいることが分かり、現在でもはっきりした原因は分かっていません。
また、同じようにドライクリーニングで金箔が取れるという事例も見られます。
これもクリーニング溶剤とバインダーの関係に起因していると思われますが、やはり原因
因子の特定にまでは至っていません。
ただ、この二つのトラブルには共通するキーワードがあります。それはバインダーの劣化
です。経年したきものほど故障事例が多いことからも、バインダーの劣化が進み、接着力
が低下したことが剥離に繋がったと思われます。
そして、その劣化を助長しているのが「酸化」であり、その誘引となっているのが、
実は「湿気」なのです。
酸化がもたらす様々な時経変化は、すべてが湿気がその温床になっていると言っても過言
ではありません。
その意味でも、調湿管理することが、メンテナンスの基本と言ってよいでしょう。