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きものトラブル事例集

きものトラブル事例集 は行 その6

変色 箔の変色・剥離

 

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箔の経年劣化による変色です。

橘の花の下半分が黒ずんでいます。

元は金の引き箔でした。

 

そして周りの葉の茶色い縁取りも元は

金、更に左側に見える雪輪の縁も、

元々は金加工が施されていました。

 

このような変色は、箔自体が変色する

ではなく、箔を留めている粘着剤が

腐食して起こります。

 

本来金は(その純度にもよりますが)

ほとんど変質しません。つまり変色し

たのであれば、それは本金箔ではなく

樹脂箔だったということです。

 

樹脂箔とは箔押し(ホットスタンプ)

と呼ばれる技術で、箔(フィルム)を

熱で圧着させて金属のように装飾した

ものです。

 

箔の色を変えれば様々に装飾出来る為

それを変色と気付かず、結果的に悪化

させるケースも少なくありません。

 

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そして粘着剤の腐食が進むと、この様

剥離が起こり始めます。

 

この状態になってようやく気付くケー

もあるのですが、ここまで進

離が一部だけでなく、既に全体

可能性が高くなります。

 

中には触っただけで剥がれ、畳む

ロボロ落ちてくる酷い状態のもの

もあります。

 

こうなると、もう何をしても手遅れ。

着物としての終焉です。

 

きものの劣化は、私たちの老化と同じ

です。気づかぬ内に忍び寄るのです。

 

箔の剥離が、鏡に映る自分の頭皮と思

えば、事の重大さに気づくのです。

 

ハ~。

 

 

 

 

きものトラブル事例集 は行 その⑤

変色 (黒留袖の経年変化による変色)

留袖の黒は喪服と違い引き染めで染め

られます。これは三度黒と呼ばれ、種

類の異なる染料液で三回重ねて染める

ことで、深い黒が得られる技法です。

 

留袖の地染めは、最初糊置きされた

の上から引き染めし、水洗後に更に黒

を引きます。最初の黒は化学染料で、

二回目以降はログウッドというタンニ

ンを含んだ植物染料を使います。

 

二回目以降も引き染めで染めますが、

重ね染めという技法上、柄との界線

ぎりぎり迄染めることができせん。

つまり柄場周辺に、言うならば染め残

が出来る訳です。

 

この様な染色跡は流通過程では殆ど分

からないものですが、数十年の時の流

れを経ると、二種類の染料の違いが変

違いとなって現れるのです。

 

下の写真はこの二種類の染料が経年

化で色違いとなって見えたものです。

 

経年変化による変色は生地の変質も

いますので、その意味では一つの使

期限の目安と言えるかもしれません。

 

202241117218.JPG

 

きものトラブル事例集 は行 その④

変色 <汗による変色>

知らない間に起こる変色があります。

主な原因は汗や手の汚れで、それが付

着して時間の経過とともに地色に影響

を与えるもので、長い時間を経てから

気が付く変色です。

 

変色し易い場所は、衿や袖口、おはし

ょりの部分や上前の膝上辺りで、着用

中の手や肌が触れやすい部分です。

 

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         汗による変色が発生しやすい場所

 

特に衿や袖口は直接肌に触れるので、

一度着ただけでも汚れが付きやすく、

また着用後に丸洗いやドライクリーニ

ングに出した着物でも発生します。

 

これは汗が水溶性であるため、揮発溶

剤を用いた丸洗いやドライクリーニン

グでは、汗成分を十分に落とし切れて

いないのが原因です。

 

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             写真1 衿の汗汚れ

 

また写真2は着用中に付いた汚れでは

なく、流通段階、つまり問屋や小売サ

イドの在庫の時点で、仮絵羽状態で扱

われる商品に起こり易い変色です。

 

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            写真2 絵羽汚れ

 

訪問着や色留袖など、仮絵羽で販売さ

れる商品は、広げたあと必ず袖付けの

所を持ってたたむのですが、その時に

付いた手の汚れが原因の変色です。

 

そのため絵羽汚れによる変色は、袖付

け周辺に集中するのが特徴で、在庫状

態の長い商品によく見られます。

 

また、絵羽汚れのある着物は「絵羽ヤ

ケ」も起き易くなります。

絵羽ヤケとは、長く絵羽たたみ状態に

なることで、たたんだ折山がヤケてし

まうもので、身頃や袖に白っぽい筋状

の変色を起こします(写真2の袖山の

下の筋)。

 

長く在庫になっている商品、つまりは

売れ残りの商品ということなので、そ

のような品物を勧められた場合は値段

に惑わされず、十分注意して選品する

ことが大切です。

 

また、勧める側も管理能力の有無を問

われるので、こちらも十分注意しなけ

ればなりません。

 

ハイすいません、注意します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きものトラブル事例集 は行 その③

防虫剤による事故

防虫剤は一般に衣類の保管に用いられ

ていますが、正絹の着物の場合はそれ

程重要ではなく、むしれ使用方法を間

違えると思わぬ事故を引き起こす場合

があります。

 

それがプラスチックやバインダー(接

着剤)の溶解事例です。

 

防虫剤には樟脳・ナフタリン・パラジ

クロルベンゼン等の種類がありますが

これらを大量に使用することによって

気化したガス成分が溶解事故を起こす

のです。

 

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                   写真①

 

写真①は保管中にボタンが溶けた事例

です。ボタンの材質にもよりますが、

異種類の防虫剤を併用した場合により

強く作用します。

 

 

 

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                   写真②

 

写真②は金彩模様の打ち合いです。金

彩加工は生地に接着剤(バインダー)

で糊着しているのですが、保管中に気

化したガスで溶け出し、これと重なる

部分に付着した事例です。

 

これ以外にも、防虫剤の大量使用は様

々な影響を着物に及ぼします。

そして化学変化による事故は、一般的

に修復が非常に困難です。

 

防虫剤は過信せず、使い過ぎには十分

注意することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きものトラブル事例集 は行 その③

③変色/残留物による変色

タンスの中にしまっておいた着物が、

着ていないのに、気がついたら変色し

ていた、なんてことがあります。

 

着物の変色の原因には様々なものがあ

りますが、唯一保管状態にかかわらず

起きるのが、残留物による変色です。

 

着物の染めは、様々な工程を経て完成

するもので、それらの工程ごとに多く

の薬剤が使用されますが、その薬剤成

分が繊維上に残留し経年変化すると、

地色を変色させることがあります。

 

 

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                   画像①

 

例えば①のような紋周辺の変色です。

 

紋加工をする際に、薬剤を用いて紋を

洗う工程があり、この時の薬剤の洗浄

中和が不完全で残留すると、後日紋の

周辺を輪を描くように変色します。

 

紋を洗う工程は反物の状態で作業しま

すので、背縫いを介して変色に連続性

が無いのが特徴的です。

 

 

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                画像②

 

また②は、無地染の着物が変色した

事例です。

 

仕立て前の繊維上に、染色や整理加工

で使用した薬剤が不均一に残留してい

ると、経年変化でこのように変色する

ことがあります。

 

仕立て以前の反物状態で、原因となる

残留物が付着しているため、仕立ての

縫い合わせとは無関係に発生します。

したがってこの画像のように、左右の

身頃で縫い目を境に、まったく違う形

に変色が発生します。

 

残留物による変色は、着用以前の生地

変容に起因するため、言わば不可抗力

のトラブルといえます。

 

経年変化による変色の場合、通常脱色

・色補正で修整しますが、残留物が原

因の変色は残存範囲の確認が難しく、

完全に直すことは不可能です。

 

合掌

 

 

 

 

きものトラブル事例集 は行 その②

②箔返り

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箔返りとは、織り込んだ箔が裏反って

いる状態のこと。

帯地の箔によく見られますが、小さい

ので気付かない場合の方が多いかもし

れませんが、これも事故です。

 

帯地等に使われる箔は平箔といい、

細く切ったポリエチレンフィルムや和

紙に、銀やアルミニウムを圧着させた

もので、これが製織の過程で裏返って

織り込まれることで起こります。

 

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拡大すると裏返っていることが分かり

ますが、この箔返りは製織上の技術的

な理由により生ずるもので、完全に無

くすことは難しいようです。

 

箔返り自体はそれほど目立つのもでは

ありませんので、紬の節糸程度に捉え

ていればよいのかもしれません。

きものトラブル事例集 な行

匂い袋による変色

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きものを保管する際に匂い袋を一緒に入れることがありますが、状況によりきものに黄変が発生する場合があります。

匂い袋による変色は、白地や淡い色の生地に多く見られ、明るい黄色に変色します。また黄変部分は生地の表面だけ

でなく、内側まで及んでいたり、重なり合う側まで変色する場合があります。黄変中央部分が最も濃く、周辺に広が

るにつれて薄くぼやけた色になります。

黄変が生じる原因は、匂い袋から出るガス成分と考えられますが、ガスの成分が複雑で現在のところ科学的な解明まで

には至っていません。匂い袋を使用する場合は袋に記載された使用上の注意を守るのはもちろん、不確かであれば使用

を止めた方がよいでしょう。

 

きものトラブル事例集 さ行

さ行 深色加工

最近の黒染(喪服地)は昔のものより黒の色が濃く見えます。これは「深色加工」という加工が施されており、現在流通している喪服地(石持)はその殆どがそうです。一般に物体は当たった光の反射量が多いほど白く見え、少ないほど黒く見えます。そこで反射光量を少なくするため、生地表面にシリコン系樹脂の皮膜を作り、光を吸収させより黒く見せる手法がとられています。消費者のニーズに合わせた商品開発といえますが、実はデメリットもあります。それは繊維表面に施された被膜がスレやムラの原因になり易いことで、ひどいものになると手で触っただけで跡がつくほどです。色を取るか扱いやすさを取るか難しいところですが、取り扱いには注意が必要です。

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       触ったことにより指の跡が付いている

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さ行

スリップ

スリップとは生地が左右に引っ張られることによって、たて糸とよこ糸がズレる現象(形態変化)のことで、一見すると破れたように見えますが、実際にはたて糸とよこ糸が交差する部分がズレて隙間が開いてる状態です。左右に力がかかる腰周りに起こりやすく、着物や長襦袢、胴裏など生地を問いません。

スリップを引き起こす原因とされるのが、生地の柔軟加工で使用される柔軟剤で、この濃度が高いと滑脱抵抗値(摩擦係数)が低くなり、スリップが起きやすくなるといいます。また、色目を深める深色加工剤の多用も原因とされています。写真2は、色糊を使った型友禅の着物の背縫いに発生したスリップで、糸が動いたことで未染着部分が露出する「目むき」という状態。

スリップは裏地に発生した場合は交換&仕立て直しで対応しますが、スリップ自体は直りませんので注意が必要です。

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写真1 夏襦袢にできたスリップ

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写真2 型友禅に発生したスリップと目むき

 

 

 

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さ行

スレ

スレとは、絹が湿った状態で摩擦されることによって発生する絹特有のトラブルです。絹は水に弱く、濡れると縮んだり、摩擦で生地が傷んだりします。よくあるのが、シミを付けて慌てて水でこするケース。また汗をかいた部分にも起こります。スレたところは、生地を斜めにするとよく分かりますが白っぽく見えます。色が剥げたように見えますが、これは生地が損傷し、スルメを裂いたような状態になって、光の乱反射や透過により白けて見えるのです。

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スレの箇所

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スレの拡大写真

 スレの修正には樹脂系のスレ直し剤を用います。剥がれて細繊化したスレの部分を元の繊維方向に寝かしつけることで、光の乱反射や透過を軽減させます。しかし、すべてのスレを直すことは出来ず、完全に元の状態に戻すことは不可能です。特に無地染めのもの、色の濃いものは修正跡が目立ちます。

スレは着物に限らず絹織物すべてに起こるトラブルですが、未然に防ぐことも十分可能です。着物の取り扱いに対する正しい知識を持つことが大切です。

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正常な繊維

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スレ発生部分

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スレ直し部分

 

 

 

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さ行

除湿剤

きものを保管する上で何よりも大切なものが除湿剤です。湿度をコントロールして保管環境を整えれば、保存中のトラブルの80%は防げると言われます。除湿剤には大きく分けて塩化カルシウムタイプ、吸湿ゲルタイプ、シリカゲルタイプがあります。このうち塩化カルシウムタイプと吸湿ゲルタイプは、吸湿すると液状化してきものを汚す事例が過去にあり、現在は形状的にはほとんど変化しないシリカゲルタイプが主流です。ちなみに下の写真のシリカゲルは、シート状になっておりがさばらず、きものに特化した商品で、2枚入りで1728円。お薦めです。

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さ行

しわ

しわは一度でも着ればどうしても付いてしまうものです。しわの発生は、その生地の持つ特性(伸縮性・復元性)により多少の違いはありますが、着たことにより付く、帯下部分と正座したときに生じる後ろ身頃の膝裏付近のしわは、ほぼ100%発生します。

原因は「湿気」です。着用時のぬくもりや汗などにより、吸湿した状態で長時間着用していると、しわが付きやすく、また取れにくくなるのです。そして一度付いたしわはハンガーにかけておいても直りません。

しわを直すにはスチームをかけ、生地をしわが出来たときと同じ吸湿した状態にする必要があり、さらに縮みを防ぐため瞬時に湿気を抜かなければなりません。そのため、家庭用のスチームアイロンでは難しく、ご自分でされることはお勧めできません。

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