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喪服と黒紋付の違い【紋の継承】

紋 黒紋付というと、すぐ喪服のことと思われるかもしれません。確かに喪服としてお黒紋付は着ますが、黒紋付イコール喪服ではありません。黒紋付とはその名の通り黒い紋付の無地の着物のことで、それ自体は色の無地の紋付と何ら変わりはないのです。つまり合わせる帯や小物によって性格付けがなされ、それが黒い帯や帯締帯揚であった場合に初めて喪服になるのです。実際にお琴や尺八といったお稽古事の大会などでは、黒紋付に銀地の帯や紫の袴を合わせて舞台用の衣装として用いてます。黒紋付を喪服としてだけで考えますと、今は着ないから必要ないとか、まだ若いから早過ぎるなどと思いがちですが、嫁入り支度としての黒紋付にはそういう事ではなく、いわば「紋の継承」という、全く別の意味があるのです。

 紋(家紋)といっても普段はあまり意識されたことはないかもしれませんが、これはどこの家にも必ずあるものです。もともとは平安時代、御所に参勤するときに乗っていた牛車の目印が紋の始まりといわれており、戦国時代には群雄割拠した武将の戦旗や陣幕に描かれ、その頃から身分の証や主従の関係という、精神的なつながりを表す印として使われ出しました。代々伝わる家の名を家紋として継承し始めたのもこの頃からで、子供が成人すると幼名の代わりに家の名を継がせる「元服」も親から子へ家名を託し、未来永劫まで栄えてほしいという、いわば「血の継承」だったのです。平成の今日では「血の継承」もちょっとオーバーかもしれませんが、その意味でいえば、二十歳の成人のときこそ振袖ではなく黒紋付を作って、成人した○○家の一員としての自覚を促し、晴れて一人前の社会人として世間から認められた事を祝福してあげるべきなのでしょう。

 時は流れて時代は変わっても、子を思う親の気持ちは変わらないし、子に託す親の思いも変わりません。嫁ぎ行く娘の、これから歩んでいく人生が幸せなものでありますように。かわいい少女がすくすく成長して成人になり、立派な○○家の人間として嫁ぐとき、親として今まで与えてきたすべてのものを、そしてその与えられた全てを愛情に変えて、今度は妻として母として、愛する夫や子供やご両親に捧げてほしい思う気持ちを、直径で2、3センチの家紋に託すのです。そしてご両親の手から離れ、新しい人生を歩みはじめるお嫁さんへの、最後の嫁入り支度としてお渡し下さい。そのとき初めて、お嬢さんは○○家の人間としての自覚と、ここまで育ててくれてありがとうというご両親に対する感謝の気持ちを、きっと素直に感じてくれる事でしょう。黒紋付は、ご両親とお嬢さんをつなぐ、形に残せる唯一の絆なのです。