ホーム>スタッフブログ>きものトラブル事例集

きものトラブル事例集

▲きものトラブル事例集▼

か行

毛羽(ピリング)

裾裏地の八掛等に見られるトラブルに「毛羽立ち」があります。毛羽立ちは生地が何かと擦れることにより、摩擦によって起こります。よく似た症状に「スレ」がありますが、スレは生地が湿潤した状態で起こり、毛羽立ちは乾いた状態で発生します。また、毛羽立ちは撚り合わせた絹糸が切れて単繊維が抜け出した状態で、スレのような繊維自体の剥離損傷は見られません。どのような生地でも濡れればスレは起きますが、毛羽立ちは事故例としては多くなく、まったく起きない生地もあります。糸の質にその原因があるとされるので修整は難しく、生地の交換となります。

 

2016102318926.JPG

八掛の裾に発生した毛羽立ち(京都市繊維技術センター資料参照)

2016102318109.JPG

毛羽立ちが発生した部分(京都繊維技術センター資料参照)

 

 

 

▲きものトラブル事例集▼

か行

金彩変色

金彩(金加工)は、長期の保管中に徐々に変色することがあります。変色の原因は様々ですが、大別するとガスによるものと、酸化によるものに分けられます。金彩に用いる金属は金・真鍮・銀・アルミニウム等がありますが、例えば銀やアルミニウムはイオウ分と反応して硫化銀となり黒く変色し、真鍮は銅と亜鉛の合金であることから、酸化すると緑青に変化して緑色のサビとなります。

イオウ分といってもピンとこないかもしれませんが、着装に使うゴム製のベルトやウールの腰紐にはイオウが含まれており、緑青は文字通り酸化反応です。金彩に用いる金も本金ではなく、銀やアルミをベースに黄色く着色したものが多く、結果黒く変色するのです。また、湿気により金彩の下のバインダー(接着剤)が腐食して、変色しているケースも多く見られます。

金彩変色のほとんどが、その保管環境の悪化によって起こります。一度変色してしまうと修正は難しく、新たに金彩加工を施すとなると高額な費用が掛かります。虫干しや乾燥剤を多用し、良好な保管状態を保つことがなによりも大切です。

20161010185520.JPG

金彩の硫化変色

20161010185757.JPG

ホックに発生した緑青の打ち合い

 

 

▲きものトラブル事例集▼

あ行

黄変

文字通り黄色く変色すること。絹はたんぱく質なので、長い間に酸化を起こし変色します。これは自然の酸化作用で、言うならば「お肌の老化」と同じ、防ぐことはできません。胴裏の変色で気づく場合が多いですが、表地も染めてるので分かりにくいだけで、同様に変色しています。白襦袢でありながらキレイに黄変しているので、クリーム色の長襦袢として持ってこられたお客様に、これは変色した白襦袢ですよといってびっくりされる方がよくいます。ちなみに黄色くなった白生地は商品価値ゼロで、呉服やさん泣かせです。

 

2016726173853.JPG

              紋綸子(左)と黄変したちりめん生地。これでも一応無垢。

▲きものトラブル事例集▼

あ行

ウォータースポット

一越や古代ちりめんなど、捻糸を使った生地に水滴などが落ちると、その部分だけ地色が濃く見えることがあります。これは生地が部分的に収縮し、光沢異常によって濃く見えるもので、ウォータースポットと呼ばれます。ちりめんなどのシボの立つ生地は湿気に弱く、水がかかるとその部分だけ縮み、陰影となるのです。ウォータースポットを直すには、部分的であれば蒸気を当てて再整理することで修整できますが、例えば土砂降りの雨に当たったとか広範囲に濡れた場合は、解いて洗い張りをしなければならなくなり、大事になるので注意が必要です。ウォータースポットを防ぐには撥水加工を施す等、事前の準備が大切です。

 

201676165617.JPG

     ウォータースポット。濃い部分が縮んでいる。

    (京都市産業技術研究所資料参照)


 

 

 

▲きものトラブル事例集▼

あ行

糸よごれ

糸よごれとは、生糸の単繊維にカイコの汚れが付着したまま織られた布に見られる黒っぽい筋のこと。死繭(しにまゆ)とも呼ばれ、拡大すると繊維に織り込まれているので、明らかに後から付いたしみや汚れではないことが分かります。比較的紬地に多く、紬の野趣と捉える見方もあります。

2016621133330.jpg            黒く見えるのが死繭部分            (京都市産業技術研究所資料参照)

 

 

 

▲きものトラブル事例集▼

あ行

アイロンのアタリ

アイロンのアタリとは、生地にアイロンを掛けたとき、生地の表面に光沢異常(テカリ)が起きることです。絹はデリケートでアイロンの設定温度が高過ぎたり、強く生地に当てたりすると付きやすく、特に濃い色は目立ちます。また単衣の場合は布の厚みの段差だけでアタリが付くので、アイロンを掛けるときは縫い目を避けるようにします。アタリは生地の光沢異常なので修整するのは難しく、アイロン掛けは注意が必要です。

20166913348.JPG

上下の赤いシールの間に見える三角形の黒ずんだアタリ。これはアイロンの跡で、光沢異常により生地や地色によってはそこだけ濃く見えます。

20166913450.JPG

アタリを拡大したもの(右が正常)。圧が掛けられ糸の組織の頭が扁平になることで、光の反射屈折で光沢異常を引起します。(京都市産業技術研究所資料参照)