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2022年10月

カビ考学 カビ、実は怖かった!

人間が生活する環境、衣食住の全てで

カビは発生します。

 

皆さんの大切な着物にも、当然カビは

しっかり生えてしまいます。

 

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カビが発生する条件としてよく言われ

るのが温度・湿度・養分・酸素です。

 

これらがタップリあるとカビは喜んで

生えるのです。

 

そもそも「カビ」とは何ぞやと言うと

生物を動物、植物、原生生物の三つの

カテゴリーに分けた、キノコや酵素と

同じ原生生物の「真菌」というもの。

 

ではどこに生息しているのかというと

この空気中に浮遊しているのです。

 

つまりカビの元となる真菌、コレ実は

身の回りにすでにアチコチ漂っている

のです。

 

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漂っているのは丸い形をした「胞子」

の状態で、それが辿り着いたところが

上記の4条件に合致した場合に、手を

出し足を出し成長して、あのカビの姿

になるのです。

 

温かくて湿っぽくて、食べ物(繊維)

いっぱい。イエーイ!って感じで、

閉めっぱなしのタンスの中は、カビに

とっては、まさしく天国でしょう。

もっとも、この4条件が揃わなければ

逆にカビは発生しにくい。

ならばこのどれか1つでも防いでしま

えばよい、と言うことにもなります。

 

そこで効果的なのが「除湿」です。

除湿は乾燥剤を入れるだけなので、

簡単に湿度管理が出来ます。

 

着物の保管には乾燥剤を用いて、

常に乾燥させるようにします。

 

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また最近は、気密性の高い着物専用の

収納袋もあるので、そういった商品を

上手に利用するのも良いでしょう。

 

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このようなカビの発生を防ぐ処置は、

着物を管理する上で必要不可欠なもの

と言えます。

 

と言うのも、カビがもたらす悪影響は

実はかなり重いものです。

 

カビが生えるのは身近なことなので、

それほど驚くことはないと思いますが

一旦カビを生やしてしまうと、それを

落とすのは非常に困難なのです。

 

カビは胞子で付着すると、繊維の中に

菌糸を伸ばし成長しますが、初期の段

階ではほとんど分かりません。

 

カビが生えていると気づく、つまり目

視で確認できた時点で、白カビ、黒カ

ビに限らず、すでに繊維内に十分根が

っている状態なのです。

 

そうなると丸洗いだけでは落とせず、

併せて有機溶剤や水を使ったしみ抜き

加工が必要になるケースがほとんどで

しかもそれでも完全に落とし切ること

は出来ません。

 

そしてカビが厄介なのは、繊維内に残

っていた菌糸が成長して、再びカビに

なる可能性があるからです。

 

布地特有の、複雑で広範な繊維組織が

カビの除去を困難にしているのです。

 

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シミ・汚れ・変色等、着物の修復加工

は、通常一度加工すれば元に戻るよう

なことはありません。

 

しかしカビは再発の恐れがあります。

 

そして面倒な事に、白っぽい地色だと

殆ど分からない、見えないのです。

 

また、白カビは拭いてしまうと落ちた

ように見えますが、生地に侵食した菌

糸は繊維組織をを徐々に蝕みます。

 

やがて茶色く酸化が進み、生地全体が

ボロボロに傷んでしまい、こうなると

もう直す手立てはありません。

 

更にカビの害が恐ろしいのは、重なり

合う着物にも菌が移り、同じように侵

食が進み、遂にはタンス全体に感染が

広がってしまうのです。

 

その意味で、シミ・汚れが外科的症状

だとすれば、カビは内科的な、しかも

悪性の難病と言えるかもしれません。

 

しかも完治しません。

 

カビは、一度罹ったら二度と治らない

恐ろしい不治の病だったのです。

 

ほら、怖いでしょ?

 

 

え、ドライクリーニングで色が落ちる?

ドライクリーニングで(丸洗い・生洗

い含む)着物の色が落ちることはある

のでしょうか?

 

YESかNOで言えば、

答えはYESです。

 

ただし正確に言うならば、

「起こさない」ですね。

 

洗い加工をする場合、事前に試験を行

います。試験をして加工に支障がない

か、必ず確認をするのです。

 

なので、実際にはそのような事故は起

こりません(起こしません)。

 

もっともそのような事故に繋がる可能

性のある商品も限られていて、通常は

全く心配する必要はありません。

 

では、その限られた注意が必要な商品

とは何かと言うと、留袖と喪服です。

 

ご存じのように、留袖と喪服は黒い

染料で染められています。

この黒い染料に、実は問題があるの

です。

 

一般的に着物を染めるために使われる

染料は化学染料です。

 

化学染料(合成染料)は石油を元に科

学的に合成されたもので、安定した発

色性が得られることから、現在着物に

限らず広く使われています。

 

それに対して留袖と喪服は植物染料、

つまり草木染が主流となっています。

 

草木染は草木を煎じた液に金属を加え

発色させるもので、化学染料の発明以

前から行われていた染色法です。

 

化学染料には無い、深みのある色目が

徴で、これに薬品を加え化学変化で

より黒を際立たせる染色が、今日では

主流になっています。

「三度黒」や「藍下・紅下」等の名称

を聞いたことがあるかもしれません。

 

で、この黒、確かに真っ黒なのですが

実は非常にデリケートなのです。

 

化学染料に比べ堅牢度が低く、摩擦に

弱く、色の定着も悪い。

 

中には擦っただけで色が付く、触った

だけで跡が付くような物も(樹脂

工剤を使用している場合)あります。

 

真っ黒の喪服を仕立てたら、アイロン

の跡で真っ白になった、なんて冗談み

たいな話もあるのです。

 

また草木染は酸性染料なので、例えば

お酒等酸性の液体をこぼすと、変色

伴うシミになるので注意が必要です。

 

このように見た目だけで実用性が伴

ない品質は確かに問題ではありますが

現実としてそれに価値があると認識さ

いるのが実情なのです。

 

もちろん、ここで述べた事は極端な例

であり、すべての商品がそうである訳

はありません。

 

色が落ちる原因に、クリーニングに使

用した溶剤の品質に問題があったケー

スも存在します。

 

しかし黒染、草木染である以上、この

ような特性を持っていることは事実で

り、それを理解するということは

とて大切なことなのです。

 

 

今度、黒染の着物をクリーニングに洗

いに出ことがあれば、その前に一度

アルコールで擦ってみてください。

もしそれで色が付いてしまったら・・

 

 

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あちゃ~

 

 

人は失敗を重ね、成長するのです。