染み抜き
〇〇〇〇のシミ
このシミは「おしっこ」です。
ハイ、意外と多いんですね。
裾は汚し易い部分です。
尿の成分はその90%近くが水分で、
残りがタンパク成分などです。
なのでおしっこのシミは早めに水洗い
すればキレイに落とせます。
とは言え、シャツやジーンズならまだ
しも、着物じゃそうは行きません。
しかし時間が経つと残ったタンパク質
が凝固して、結果落ちにくい酸化した
黄シミに変質してしまいます。
こうなると通常の酵素剤や漂白剤等で
は落とし切れず、染料を併用した工芸
修正が必要になります。
上の画像は裾の比翼地のシミ。
見る限り目立つ変色は際の部分だけで
しみ抜きが可能なのはこの程度まで。
比翼地は生成りなので修整には限界が
あり、これ以上の変色の場合には比翼
地の交換も含めた対応が現実的です。
粗相した着物のお手入れは、なかなか
気まずいかもしれませんが、何も言わ
なくてもプロなら見れば分かります。
早めのお手入れを心掛けましょう。
金彩加工の劣化
これは留袖の金彩模様の劣化です。
金彩加工の箔はバインダー(接着剤)で貼り付けられているのですが、湿気等保管状態が悪いと
接着剤が劣化して剥離しています。画像の金彩は糸目に本金を使ったしっかりした加工のものですが、
やはり30年以上経つと劣化は否めません。中には金彩の接着剤が浮いて出て、生地がくっついて
剥がれなくなるケースもあります。いずれの場合も湿気によるバインダーの腐食が原因です。
この留袖は当初丸洗いでお受けしたのですが、金が更に剥がれる恐れがあるため部分洗いに変更しました。
★【しみ抜きビフォーアフター】⑥
やはり残ってしまいました。初の返品事例です。
黒褐色のシミは薄くはなりましたが、酸化跡は消えていません。
どうやら「サビ糸」ではなかったようですが、
しみが薄くなると同時に柄も抜けてしまいました。
酸化したしみの地直しには、必ず漂白加工が伴いますので、
どうしても染料を使った手書きの修整工芸が必要になりますが、
たとえば江戸小紋のような細かい模様の場合は、大変な手間がかかります。
しみ抜きとは単にしみを落とすことではなく、
しみの部分を総合力で原状回復すること、を意味します。
コレ、直りますか?しみ抜き加工事例⑦
事例⑦ 酸化しみ ( M様 )
一見、何かに擦ったような汚れに見えますが、実はこのシミは手強いですね。
拡大すると、糸自体が変色して、それが織り込まれてるようにも見える。
これは「サビ糸」といって、生糸が精練されるとき、何らかの理由で不純物が糸に残り
それが後々時経変化して発色するもので、その場合はほとんど落ちないケースが多い。
もっとも、シミの発色というのは実に様々で、これがそうだとは見ただけでは分かりません。
いずれにしても、色を見ただけでも落ちにくいシミであることは変わらず、
これはこのコーナー初の「返品」ケースになるかも。
乞うご期待(?)。
コレ、直りますか?しみ抜き加工事例⑤
事例⑤ 酸化しみ ( 若葉台 O様 )
白地の綸子生地の酸化したしみです。
よく見ると、明らかに生地が逝ってます。これはキツイ。
白い生地がコゲ茶になるほど酸化が進んだしみの場合、
生地が劣化して、硬化します。実際、触ると硬くなっています。
こうなると、強い薬品は使えません。穴があきます。
一般にこのような重症のしみは無理に抜こうとせず、
染料で修整します。つまり、チョチョッと描いて、誤魔化すのです。
“誤魔化す”というと語弊があるので言い方を変えれば、
そこに模様を描いてしみをごまかすのです。(?)
幸いにして、この着物は全体がこんな感じの小紋柄なので
加工はし易いと思いますが。
はたして。
★【しみ抜きビフォーアフター】③
しみ抜き加工事例③のビフォーアフターです。
試験の結果、しみは水性のものと判明。
幸いスレもなく、良く落ちました。
地紋のない変わり一越は、生地の変化が目立ち易く、
しみを付けた場合は十分な注意が必要ですが、
これをお持ちになった方は、その辺りのことを
よくご理解頂けてたので、キレイに加工できました。
変わり一越に限らず、実は無地の着物(訪問着・留袖など、
無地場の多い着物も含む)のしみ抜きで厄介なのが、
糊の「水カタ」です。
「水カタ」とは、生地に含まれる糊の「跡」のこと。
後染めの生地には、程度の差はあれ糊が含まれていて、
その糊がしみ抜き加工で動いて、その跡が「陰影」のように残るのです。
特に無地の場合よく目立ち、
一見するとしみやムラがまだ残っているように見えます。
糊がきつい生地の場合は、カタを消すために、またカタを作るという悪循環に陥ることがあり、
職人泣かせの生地と言えます。