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きものトラブル事例集 は行

は行 箔の異常

① 箔焼け

2020510121030.JPG

京都市産業技術研究所 故障事例集より

 

和装品に使われている金銀糸や平箔が

保管中に黒く変色する事があります。

これは金銀糸や平箔に使われている金

属素材の銀とイオウ成分が引き起こす

化学変化(銀の硫化変化)で、一般的

には箔焼けと呼ばれています。

 

上の写真は、保管してあった帯の表面

が黒ずんでしまったもの。

帯の上に置いたものにイオウ分が含ま

れていて、その気化したガスで全体が

変色したと思われます。

 

また、一部四角く変色してない部分が

見られますが、これはそこにあった物

が、上からのガス成分を遮断したため

変色を免れたと推測されます。

 

2020510134329.JPG

京都市産業技術研究所 故障事例集より

 

上の写真は、金銀糸を使った帯締めを

丸めて巻いて輪ゴムをかけて保管して

おいたところ、輪ゴムに接触していた

部分が黒く変色したものです。

 

ゴム類にはイオウ分が含まれているの

で、金銀糸や平箔に接触すると、この

ようなトラブルを招きます。

 

ゴムを使った小物類は、きものや帯と

は別にして保管しましょう。

 

たんすコンシェルジュのすすめ

2020417105425.JPG

 

先日、たんすコンシェルジュの依頼が

あり、ご自宅訪問させて頂きました。

 

たんすコンシェルジュとは、手持ちの

着物のメンテナンスや整理について、

実際に自宅に伺い、たんすの中を見な

がらアドバイスするという、きもの専

門店ならではのサービスです。

 

訪問が前提で、しかも上がり込むので

敷居は高いのですが、その人に合わせ

たきめ細かな提案ができるので、

これがそこそこ好評なのです。

 

たんすコンシェルジュとしての訪問は

今回が2回目。

 

一応、試験も資格も必要な肩書きです

が、実は悉皆屋的には当たり前の知識

であり、従来の「タンス診断」訪問と

内容的にはさほど変わりません。

 

ただ、昨今は何処の馬の骨(これは中

国の語源で役立たずの厄介者の意味)

か分からぬ見知らぬ呉服屋を、簡単に

家に招き入れる程、世の中甘くはない

はずなんですが、だからこそのニーズ

なのか、横文字の響きがいいのか、

今回、又お呼びが掛かりました。

 

ありがとうございました。

 

コンシェルジュが対象とするのは、当

然ですがたんす(を含めた手持ち)の

着物。それが今どういう状態なのか、

またどうしたらいいのか、等について

アドバイスします。従って何かを売り

付けたり、買い取ったりはしませんの

で、端から処分を考えているのであれ

ば、元より出番はありません。

 

コンシェルジュを利用することの最大

のメリットは、手持ちの着物の価値が

判ること。もちろん、これ売ったらナ

ンボの値段ではなく、自分にとっての

「利用価値」の見極めです。

 

例えば母親の留袖があるとします。

 

留袖は結婚式にしか着れませんので、

将来的にもその予定が全くなければ、

利用価値はゼロです。

 

でも、お子さんが一人でもいるなら

この子のときにでも、と利用価値が生

まれてきます。

 

ただ、その着物が古ければ古いほど待

ち得るハードルは高くなります。

 

「柄が古臭い、柄はキライじゃないけ

どシミだらけ、柄も汚れも許容範囲だ

けど袖を通したらサイズが足らない、

柄も状態も悪くなく寸法もいけるしこ

れならいいんじゃない?と思ったらこ

の留袖に合わせる帯や襦袢がない!」

 

手持ちの着物が自分のものでない以上

何が障壁になるか分かりません。

 

その人の体形や保管状態の違いで、

金銭的な意味も含めて利用価値は大き

く変化してしまいます。

 

そして、意外性もまたしかりです。

 

留袖用じゃないけれど、探したら喪服

の白襦袢と訪問着の帯が見つかって、

これが意外にも留袖に合っちゃった、

なんてことも・・・。

 

これだけで利用価値は一変します。

 

もっとも、当然そう上手くいくわけで

もなく、全部ダメな場合もあります。

 

ともあれ、お手持ちの着物の価値評価

は、最後はご本人様に委ねられます。

 

自分のこと、家族のこと、それらを含

めてその着物が価値があるかどうかは

ご自身で判断するしかないのです。

 

コンシェルジュは、その道案内に

過ぎません。

 

ただ、その価値を客観的に判断する

ための見方、ポイントはあります。

 

最後にそれを3つ挙げておきます。

 

1つは、費用対効果

 

古い着物の再利用には、必ず費用が掛

かります。どれもこれもではキリがあ

りません。何を生かしてどこにお金を

掛けるか、優先順位を設定してしっか

り線引きをすることが大切です。

そこで、

 

2つめは、絞り込むこと

 

着物には様々な種類のものがあります

が、ご自分のたんすの中の着物がどう

いうものか理解した上で、残しておく

ものを選ぶことが大切です。

 

そう、残すものを「選ぶ」のです。

でも決して難しくはありません。

 

着物を知らない人にとって、

たんすの中身はカオスです。

 

それくらい、昔の人は必要なものも、

不用なものも(こちらの視点ですが)

ゴチャまぜなのです。

 

説明を進める中で、自分にとっての着

物が、おぼろげながら見えてくると、

どれを選べばよいか分かってきます。

 

過去には、結果として80%処分して

サッパリした、なんて事もあります。

 

3つめは、長いスパンで考えないこと

 

子供がいるから、といっても、

その子が小学生、中学生だったら、

着物が持ちません。

 

多分、貴女が手にしたその着物は、

すでに息も絶え絶えなはずです。

 

利用するスパンは長くて10年です。

今から10年以内に着る可能性のある

ものを、優先して選びましょう。

 

 

テレビのCMに、

「5年着てないならもう着ないって」

というフレーズがあります。

 

でも、二千年に亘るきものの歴史を

鑑みれば、未だたとう紙の紐を解く

ところまでも、至っておりません。

  (書いてて意味不明)

 

とは言え、流れの早い現代に於いては

たんすの肥やしどころか、発酵し過ぎ

の単なるゴミ化の恐れもあるのです。

 

とにかく、生かすも殺すも貴女次第。

 

♪貴女まかせのワタシなの、と、

たんすの中の着物も申しております。

   (更に意味不明)

 

どうせコロナで何処へも行けません。

 (あっコンシェルも無理か?)

 

貴女も一度、勇気を出して

のぞいてみませんか。

 

 

 

 

 

春よこい

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これは、ある熟年夫婦の偽らざる真情

を、赤裸々に発露した唄である。

 

 

春~るよこい は~やくこい

バイクにのりたいジイさんに

かたわのくせにとバアさんが

身の程知れとおこっている

 

 

実はこの唄には、2番があった。

 

 

春~るよこい は~やくこい

バイクにハマったジイさんに

かたわとののしるバアさんが

はーやく事故れと待っている

 

 

合掌

だれか、たすけて。

現在、環状4号線青葉台駅周辺のイチ

ョウ並木は、植樹40年を経て巨木化

大径化したことから、通行の安全性や

樹木の健全性を考慮し、間引き伐採が

行なわれている。

 

イチョウは虫が付かず、難燃性である

ため、街路樹には最適とされており、

秋には厄介な落し物が難点(人による

が)ではあるものの、それでも青葉台

の季節を彩る、馴染み深い木々です。

 

なので、切ってしまえば当然、

 

2020322104725.JPG

 

こういう反応は起こるわけで、

新たな切り口を見れば、

 

2020322105031.JPG

 

という気持ちにもなるんですよね。

 

まあ、あればあったで不満を言い、

無ければないで文句を言う。

古今東西、これが世の常ですか。

 

ここは地域の住環境、交通安全のため

切るのもやむなしかと・・・

 

 

 

 

202032211157.JPG

 

ってオイ、ずいぶん切ったな・・・!

 

 

 

 

 

 

 

さよならは、突然に

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先日、年末に発注していた染加工が、

ようやく京都より上がってきました。

これは当店で手掛ける誂え友禅として

は、最後の加工品となりました。

 

昨年、京都で唯一操業していた染工場

が、ブック見本の新刊発行を見送り、

現行のブックでの受注が最後となり、

12月30日京都着の、駆け込み発注

で染め上がったのがこの商品なのです。

 

 

 

誂え友禅とは、生地の段階から染出し

する友禅染のこと。

 

通常の呉服は染上がった原反から選ぶ

のに対し、誂え友禅はまず染める生地

を選び、柄もブック見本に掲載されて

いる柄の中から選ぶのです。

 

染めの段階から発注できるので、柄付

寸法や地色の変更が可能で、生地を選

ぶことで、染上がりも調整できます。

 

染工場も、当時(昭和60年頃)大小

合わせると70軒ぐらいあり、其々が

1~2冊のブック見本を持っていたの

で、柄行も多岐に亘り、本来の意味で

のオートクチュールではありませが、

自分だけのオリジナルに近い誂え染が

できたのです。

 

しかし、現品で見ることができない分

その柄が自分に合うのか分かりにくく

きものに慣れ親しんでいないと、柄選

びが難しい商品でもありました。

 

 

誂え友禅は、小売店が顧客から染加工

を受注し、それを京都の染問屋に発注

します。発注された加工はその柄に応

じ、各染工場に染め出されるのです。

 

この京都に染め出すことを「京染」と

いい、これを生業とする店を京染店と

呼んでいて、屋号は大概「京染〇〇」

となってました。ちなみに当店も創業

当時は「京染綾匠」でしたね。

 

京染店は染め受注をメインに、それに

付随する加工全般を請け負う、いわゆ

る悉皆業が主な仕事でした。

その意味では呉服店とは異なります。

 

老舗が多い呉服店と比べ、在庫商品を

持たず、起業リスクの少ない京染店は

零細の家業店が多い業態でした。

 

時代が変わり、着物離れが進むと、そ

の様な(京染店の)業態は、淘汰の流

れもまた速いものでした。

 

昭和50年代をピークに市場規模は縮

小し、取扱高、小売店数、事業者数の

すべてが減少して行きました。

 

60年代当時、日産2000点以上の

染出しを誇っていた古くからの取引先

も、一昨年に廃業しています。

 

そして令和の時代に入り、その日は突

然、本当にあっけなく訪れました。

 

京都に問い合わせたその電話で初めて

知ったのです。慌てて発送の準備をし

配送依頼が済んだのが15時58分。

12月29日のことでした。

 

 

令和元年12月30日、最後の最後に

染め出したきものは、その染工場の

最後の仕事となったそうです。

 

最後のご注文を賜りました明石様、

誠にありがとうございました。

 

心より御礼申し上げます。

 

 

 

 

 

ありゃ、もう咲いてるやん。

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寒桜だろうけど、今年は早いですね。そんな咲き急ぐなよ、なあ。

 

きもの着ましたぁ!・・・で?

きものを着て帰ってきたら、

さてどうします?

あーようやく帰ってきたー疲れた~!

って、きものを着ると、まあ実際皆さ

んこんな感じですよね。手早く脱ぎ

捨て、足でけ飛ばし、あーもういいや

って思いつつ、でもこのままじゃまず

いと、アタマでは思いますよね。

そしてとりあえず今日はハンガーに掛

けて明日やればいいや、となります。

無情にも時は過ぎ、あっという間に翌

日です。振り返れば、そこには昨日の

まんまの脱ぎ捨てられた惨状。

さてどうする?

 

とにかくどうにかしなきゃなんない。

そこでネットで探ってみると、

うん色々出てますね。

必ず干してホコリを払い、シワはハン

ガーにtつるして取りましょう。

汚れはベンジンや濡れタオルで

チョチョイのチョイ。

中にはネットに入れて、洗濯機で洗い

ましょう、なんて豪快な方法を載せて

いるサイトもあります。

 

今の時代、何を調べるにも、先ずはイ

ンターネットです。しかし、無防備に

信じ込んだら、そこは白黒入り混じる

カオスの世界。キケンと隣り合わせで

ケガをします。

 

大体ネットに載ってること、あたかも

簡単そうに書いてありますが、真似し

てやっても、まず上手くいきません。

ハンガーに掛けてもシワは伸びないし

濡れタオルでチョイチョイしたら汚れ

は更に広がります。洗濯機なんてアナ

タ、想像しただけで背筋が凍ります。

 

もちろん、方法としては決して間違い

ではありません。ただ当然ながら知識

とスキルが必要で、素人が単に真似を

しても上手くいく訳がないのです。

 

では、どうしたらよいのか。

実は皆さんがやるべきことは、

たったひとつです。

 

それは 

きものが今どういう状態

なのか確認すること。

です。

先ず部屋を明るくして、床にきものを

広げてください。そしてシミや汚れが

ないか調べて下さい。表から裏まで、

つぶさに隈なく、目を皿にしてチェッ

クするのです。

自分のきものの状況確認。

これが一番大切なのです。

 

では、どのように調べるか。

チェックするポイントとして

 

①衿

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衿は一番汚れが目立ち、放っておくと

汚れが膠着し易いところ。

留袖など比翼仕立てのきものは比翼の

衿もチェック。

 

 

②袖口

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袖口も直に皮膚に当たるところで、

汗や皮脂で汚れ易い。

 

 

③その他汚れ易い箇所

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それ以外にも、車の乗り降りで汚れが

付きやすい後ろ側の裾や、汗をかきや

すい脇の部分や背中なども要チェック

(汗かきは裏地側から見た方がよく

分かります)

 

きものの状態が判れば、それに合わせ

て取るべき対応が分かります。

その選択肢は大きく分けて3つです。

 

まず、もし何も汚れが無くシワもなけ

れば、そのままタンスに仕舞えます。

汚れていなければ無理に洗う必要はあ

りません。

また汚れはないけど、シワが目立つの

であれば、一般のクリーニング店での

クリーニングやプレス加工でも大丈夫

です。(ドライクリーニングだけでも

OKという意味)

そしてシミや汚れがあるのならば、

これは迷わず専門の業者に依頼するの

がよいでしょう。

 

では、どのようなお店に出したらいい

のか?これも迷うところです。

 

一般的にクリーニング店や呉服屋さん

またはデパートの呉服売り場の悉皆加

工部等、基本的にはどこであれ、信用

としっかりした技術があればよいかと

思いますが、大切なのは着物のこと、

また着物の生地のことを知っている

ということです。

 

着物の絹糸は、私たちの皮膚と同じ

蛋白質です。

絹は親水性が高く、染め上がりが良い

のですが、その分しみや汚れが定着し

易く、放置すると化学変化で酸化し変

色を招き、結果的に生地を痛めます。

 

なので着物のしみ抜きには、付着した

しみや汚れを落とすだけでなく、その

ことによって変質した状態を、染料や

その他様々な工芸修正を用いて修復す

る技法とスキルが必要になるのです。

 

また着物の生地も絹の他に綿、麻、化

繊など様々なものがあるので、その素

材の違いにも適切に対応する必要があ

ります。

 

つまり着物をしみ抜きするためには、

しみを落とす技術とその跡を修整する

技術、そしてそのための染料や染織の

知識も必要になってくるのです。

 

もっとも初めてしみ抜きを依頼しよう

とするお店に、そんな技術や知識があ

るかどうかなんて分かりませんよね。

 

ではどうするか。

一番いい方法は、質問することです。

それに対してしっかり答えられるか、

やってみなきゃ分かりませんでなく。

 

きものの手入れ加工は、3つに大別

されます。

一つは丸洗い(生洗い)またはしみ抜

きのみの加工。

2つ目は丸洗いとしみ抜きの併用。

もう一つは、丸洗い・しみ抜きと、

染料等を使った工芸修整の併用です。

 

自分のきものがこの3つのどれに当た

るのか、聞いてみるのです。

 

しっかりした技術を持っているお店な

ら、見るだけで分かりますし、その状

態を見て、どのような加工が必要か、

費用が掛かるかどうかも、その場で答

えてくれます。

 

ちなみに丸洗いとは揮発溶剤を使った

いわゆるドライクリーニングのことで

これだけではしみや汚れは落とし切れ

ません。

時折、丸洗いすればきれいになります

という表現を見ますが、これはしみ抜

きも含まれているケースが大半です。

そのため料金も千円台から1万円以上

と巾があります。

 

話を戻しますが、とにかく確認するこ

とが大切です。

それと、仮にしみを見つけても、決し

て自分でイジらないでください。

 

前述したようにネット等の情報は、

いわゆるフェイクなものも多く、その

まま真に受けるのは非常にキケンです

(ま、これもネットですが)。

 

例えばの話、

★きものをハンガーに掛けて干す

この当然に思える行為も、長ければ良

いというものでもなく、余り長く吊る

すと、生地によっては(特に留袖)

自重で伸びて、裾が袋状にたるんでし

まう恐れがあります。

干す場合は扇風機などを併用して時短

を心掛けるようにしましょう。

 

★ハンガーに掛けてシワを伸ばす

おそらく1ヶ月吊るしても、シワは伸

びないでしょう。シワは自然には消え

ません。シワを消すには、消すための

「修繕」が必要なのです。

 

★アイロンは低温で当てる

アイロンを使うときは、決して直に当

てたり、スチームをかけたりしてはい

けません。生地にアタリが出たり、縮

みを起こす恐れがあります。

アイロンを使用するときは、必ず裏側

から当て布をして、スチームをかけず

中温で縫い目を避けてかけます。

この時、ちょっと伸びたかなくらいで

止めること。伸び切るまで当てると、

生地に負荷が掛かってしまいます。

 

★水で叩く

きものに水を用いるのは厳禁です。

お湯でも絞ったタオルでもダメです。

「叩く」という行為を、多分シミを落

とす作業と履き違えているようですが

仮にベンジンを使ったとしても、

やり方を間違えれば、シミを落とすよ

りもムラになる可能性が高いです。

もし、それを水で叩いたとするなら、

それは真っ白なキャンバスに真っ黒な

ペンキを叩きつけるような、壊滅的行

為に等しいのです。恐ろしい・・・

 

そしてシミにも色々あります。

付着シミや酸化シミ、水溶性や蛋白系

そしてそれらが混合したシミ。

ちなみに、衿の汚れはそれらが混ざり

合った複合的なものなので、一見簡単

そうに見えますが、きれいに落とすの

は実はとっても難しいのです。

 

きものは手入れが大変で、確かに洋服

のように、気軽に家では洗えません。

でも、それは絹の持つ特性でもあり、

それゆえのしなやかさなのです。

 

絹の成分は、私たちの肌と同じたんぱ

く質。つまり、スキンケアと同じに、

いたわることが必要なのです。

皆さん、お肌のお手入れには十分過ぎ

るほど気を使いますよね?。

きもの専門店に依頼することは、美容

外科にすがることと同義語なのです。

 

それでも、自分でお手入れしたいので

あれば、まずは不用なきもので練習し

ましょう。

手持ちがなければ、リサイクルで安い

ものを調達する手もあります。そして

実際にやって見るのです。自分でどこ

まで出来るのか。実践あるのみです。

 え、やり方が分からない?

そんなの、ネットを見ればゴマンと

あるじゃないですか。

ほーら、たっくさん載ってる。しかも

どれも簡単そう。これなら自分で・・

あれっ、戻った? まあいいか。

 

今年皆様がご無事でありますよう、

心からお祈り申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防虫剤の入れ過ぎはキケンです!(ガス化によるトラブル)

きものをタンスに仕舞ったままの、虫干し等換気を一切しない長期間保存状態は、

様々なトラブルの温床になりやすく、例えば知らぬ間に変色してたといった事例は、

タンスに蓄積された酸化窒素ガスや亜硫酸ガスによるものとされ、特に北陸や東北

地方など、暖房器具を多用する寒冷地で多く発生しています。

しかし、それよりももっと身近に気を付けなければならないものがあります。

それが、大量の防虫剤によるガスです。

 

よく防虫剤によるトラブルに、金彩の剥離があります。

きものを広げてみたら、金が剥がれて他の部分に付いてしまったというものです。

 

 

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             防虫剤による金彩の打ち合い(京都市染織試験場資料)

 

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            柄箔の溶出による打ち合い(京都市染織試験場資料)

 

これは保管に使用していた防虫剤と、金彩のバインダー(接着剤)が反応して軟化し、

それが溶出して他の部分に打ち合ったもので、気化したガスが化学反応をして起きる

典型的な事故事例です。また、ドライクリーニングをしたら箔が落ちてしまった等の

事故も、やはり防虫剤の影響が考えられます。

 

以前、タンスに長期保管していた振袖を広げたら、間に挟んで置いた紙が生地に張り

付いて取れなくなった、というご相談を受けたことがあります。よく見ると、薄い和紙

が張り付いているのは金彩の部分だけで、明らかにバインダーによるものでした。

 

張り付いた紙は溶剤で落とせるのですが、ベタベタはそのままなので、打ち合いを完全

に直すには、金彩をバインダーごと剥ぎ落すといった大事の作業になってしまいます。

さすがに全ての箔を置き直すことは難しいので、今回は蝋を引いた特殊な紙を当て紙

に使い、打ち合いを防ぐようにしました。

 

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気密性の高い今日の住宅環境は、その利点が欠点となり、それこそ思いもよらない故障を

招いてしまいます。それでなくとも着ることが減り、タンスに長く閉じ込められてしまえば、

きものは否応無くその状態に晒されてしまうのです。

 

自分が5年、10年と歳を重ねるとき、きものも密かに(知られずに)同じ歳月のときを

経て、同じように老いを重ねているのです。

 

そんなきものを時には思い出し、たまにはタンスを開けてあげて下さい。

 

その優しさこそが、きものが長生きすることの出来る、唯一の環境なのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きものトラブル事例集 な行

のせ友禅&金彩の剥離

 

20191024112547.JPG

京都市産業技術研究所繊維技術センター「和装品故障事例集」より

 

のせ友禅とは、顔料及び金属粉などをバインダー(接着剤)に練りこみ捺染する技法です。

この技法で染められた柄が剥離するトラブル事例です。 

上の写真は、顔料を使用したのせ友禅の剥離部分です。柄が生地から浮いているのが分か

りますが、それ以外の部分も針で触ると簡単に剥離します。

 

剥離の原因は、当初はドライクリーニング後の発見事例が多かったので、ドライクリーニ

ングに使われる溶剤かと思われたのですが、その後溶剤だけでなく、バインダーに使用さ

れたウレタン系樹脂の種類、また顔料及び金属粉とバインダーとの配合比率など、複合的

な要因が絡んでいることが分かり、現在でもはっきりした原因は分かっていません。

また、同じようにドライクリーニングで金箔が取れるという事例も見られます。

これもクリーニング溶剤とバインダーの関係に起因していると思われますが、やはり原因

因子の特定にまでは至っていません。

 

ただ、この二つのトラブルには共通するキーワードがあります。それはバインダーの劣化

です。経年したきものほど故障事例が多いことからも、バインダーの劣化が進み、接着力

が低下したことが剥離に繋がったと思われます。

そして、その劣化を助長しているのが「酸化」であり、その誘引となっているのが、

実は「湿気」なのです。

 

酸化がもたらす様々な時経変化は、すべてが湿気がその温床になっていると言っても過言

ではありません。

その意味でも、調湿管理することが、メンテナンスの基本と言ってよいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ、きものの保管に防虫剤はいらないの?

もちろん、100%不要とは言いません。

しかし防虫剤を入れすぎると、かえってきものに悪影響を及ぼすことをご存知ですか?

それも重大なー。

 

これは大切なことなので、詳しくは次の機会に改めますが、防虫剤は使い方によっては

メリットよりデメリットの方が大きくなるのです。

入れ過ぎるくらいなら、むしろ入れない方がよいくらいです。

何故かというと、これはあまり知られてないことなのですが、

そもそも、きものはあまり虫が食べないのです。

 

 

2019929112830.JPG

 

 

上の図は虫による食害率を表したものです。

蚕の吐く糸は、フィブロインというたんぱく質と、セリシンというニカワ成分で作られ

ていて、それを精錬することによりセリシンを除去したものが、絹糸です。

 

図を見ると「生糸」に比べ「石けん精練」の糸の方が、大きく食害率が低いことが

分かります。生糸は精練してセリシンを取り除くと、食害が約10分の1と劇的に

減るのです。

 

絹糸で出来たきものは、実は意外にも虫の害を受け難い。このことからも、

防虫剤の必要性がそれ程高くないことが、お分かり頂けると思います。

 

ただし、繰り返しになりますが、まったく食べないわけではありません。

特にウールや木綿のきものには、防虫剤は必要です。

また、昔の「地絹」と呼ばれる練りの不完全な布や、酸化したシミの多いきものも、

相対的に食害率が高くなるようです。

 

つまり、古いきものほどそのリスクは高くなるのですが、例えば作って10、20年

ぐらいで、そしてそれなりにメンテも心掛けているようなきものであれば、

それほど神経質になる必要はない、ということです。

 

むしろ、防虫剤を大量に使用すると、いわゆる「ガスやけ」と呼ばれるシミや、

金や箔が溶けてしまう等、過剰に気化した防虫剤による事故が起き易くなるのです。

その確立は食害率の比ではなく、40~50%にも及びます。

そしてそのような故障は致命的で、一度なってしまうと、もう直りません。

 

しかし、これを防ぐ簡単な方法があります。

それはこの事実を知り、行動を起こすこと。

 

あなたが大切にしているきもの、もし鼻をつまむほど、たくさん防虫剤を入れてるなら、

今すぐに全部取り出してください。

 

それがあなたのきものを守る、最初にして、最良のお手入れです。

 

 

 

与那嶺貞 幻の読谷山花織をふたたび

先日、知人が沖縄県浦添市のとある病院に入院した、との連絡がありました。

病状は安定しているとのことですが、その時ふとその病院で、ある人が亡く

なられたことを思い出しました。

与那嶺貞さん。

読谷山花織の復興に尽力した方です。

今から16年前のことです。

 

読谷山花織(よみたんざんはなうぃ)は、琉球王朝期に南方諸国との交易で

伝播した絣や浮織の技法を用いた織物で、琉球王府時代には読谷山花織とし

て独自に織られ、受け継がれてきました。しかし、明治の中頃から時代の波

に押され衰退してゆき、沖縄戦後は人々の記憶からすっかり忘れ去られて、

「幻の花織」となってしまったのです。この絶滅寸前となっていた600年

の歴史を誇る読谷山花織をたった一人で復活させたのが、沖縄出身の女性、

与那嶺貞さんでした。

 

「与那嶺貞は1909年に現在の沖縄県読谷村で生まれた。県内唯一の女子

実業学校で織物を学び、その後織物の仕事に従事したが戦争により中断。戦

後は戦死した夫に代わり残された3人の子を育てるため、織物の世界からは

遠ざかっていた。しかし、貞に再び機織りに向かわせる大きな転機が訪れる。

昭和39年、読谷村の復興事業の一環で進められていた特産品作りで、伝統

の読谷山花織に白羽の矢が立ち、その復興の願いを託されたのが貞だった。

 

読谷山花織はかつては交易品や献上品として織られていた。しかし琉球国が

なくなったことや、安い織物の流入などで次第に廃れ、70年近く途絶えて

いた。長らく機織りの仕事から離れていた貞は、当初は固辞したが、花織復

活の熱意に押され、意を決してその復興に取り掛かる。貞55歳の時だった。

 

しかしその道のりは険しかった。長らく途絶えていた読谷山花織を「織るの

を見たことがある」という人はいても、実際に織ったことのある人はいなか

ったのだ。その上、織機や道具もなく、まったくのゼロからのスタートだっ

た。貞は花織の手懸りを求め島中を奔走した。現存する花織の布片をほぐし

糸を染め、試行錯誤を繰り返し、ひとつひとつ再現していった。納得いくも

のが出来るまでに10年、ついに読谷山花織の復元に成功した。貞はそれに

止まらず、自分なりの工夫を加え、時代に合った花織を創作、その存在を広

めた。また花織の将来を考え、後継者の育成にも尽力した。そしてその功績

が評価され、1999年、遂に県内で4人目の人間国宝に認定されたのだ。

ときに貞90歳。齢90にしての偉業であった。」

 

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読谷山花織の特徴に、浮織という技法で織られた鮮やかな色糸の幾何学模様

があります。よく見ると、それは3つの形と縞の組み合わせで構成されてい

ます。この3つは実は3種類の花の形を表しています。それぞれ意味は違い

ますが、どれも愛しい人に寄せる、祈りや想いが込められているのです。

着るひと、身につけるひとの、幸せを願う布。これこそ、読谷山花織が持つ

大きな特徴なのです。

 

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   カジマヤーバナ(風車花)  97歳になると風車を配る風習から 長寿の願いを込めて

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    オージバナ(扇花)    末広がりの扇形を写した扇花で子孫 繁栄の願いをこめて

    2019914101637.gif        ジンバナ(銭花)     お金を形取った模様で裕福になりますようにという願いをこめて

 

 
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読谷山花織の復元に尽力した人間国宝・与那嶺貞さんが気管支炎で亡くなられたのは

2003年1月30日、享年94歳でした。

この九寸は、お亡くなりになる1週間前に入手した、言わば遺作です。

簡単な印刷の証紙には、手書きの名前に三文判のような印が押されています。

こんな簡素に見える証紙ですが、「人間国宝・与那嶺貞」作の証しなのです。

貞さんの人となりを彷彿させるようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注意!金駒刺繡の着物をお持ちの方は気をつけて!

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絢爛豪華な刺繡の着物。中でも金糸で縁取る「金駒刺繡」は、着物の柄に華やかさと

立体感を引き立たせる、高額商品によく用いられる刺繡です。

この金駒刺繡が取れてしまったので直して欲しい、という依頼が最近増えています。

もちろん、直すことは出来るのですが、実はこれが、意外と費用が掛かるのです。

 

金駒刺繡(銀駒刺繡)は「駒繡・こまぬい」と呼ばれ、太い金糸を下絵に沿わせ、

綴糸(とじいと)で留める技法なのですが、この綴糸が細く、経年劣化で痛んで

切れやすくなるのです。

 

痛んでいる糸は密着性が悪く、指で触ると浮いて動くのが分かります。

しかし一見しただけでは分かりにくく、知らずにそのままクリーニングに出して

初めて痛んでることに気付くようなケースもあります。

 

このような金駒刺繡の修理は、単なるほつれ直しでも、刺繡専門の職人に依頼します。

なぜなら、経年劣化のほつれは部分的なものではなく、全体に及んでいる可能性が高く

その場合、一部を留め直してもまた他のところにほつれが起こり、結局すべての刺繡を

一度はがして置き直さなければ、完全に直すことが出来ないのです。

そのため、刺繡直しは新たに刺繡を施すのと手間が変わらず(むしろ掛かる?)、

結局費用も高額になりがちです。

 

過去に行なったケースでは、留袖の身頃の柄30センチ四方の直しで、70.000円

ほど掛かったことがあります。

また一度、部分的な直しを依頼したことがあったのですが、思いのほか費用が掛かり

(10センチぐらいで20.000円)、また完全に直るわけでもないので、

結局加工を諦めたこともあります。

 

金駒刺繡の柄は、友禅模様の留袖や訪問着にも用いられるので、このような着物を

お持ちの方もいらっしゃると思いますが、刺繡はとてもデリケートです。

取り扱い、メンテナンスには細心の注意が必要なことを、お忘れなく。